忘れ物競争
2010.02.09 Tuesday 00:28
疲れた、コーヒーでも飲もう。カウンターでコーヒーを注文してお金を払い、カップを手に席へと向かう。…? 視界に入る、自動ドアに映った自分。何か変だ。そう感じた瞬間に思い出した。カメラと資料忘れた!
ちょっと忘れ物をしました、また取りに来ます! 焦る私を前に、きょとんとするレジのお兄さん。何が何だかさっぱり分からないであろうまま彼が頷いたのを、“了解”という返事に変換。カップを置くと駅に向かって走り出した。コーヒーショップに向かう前にATMに立ち寄り、そこに荷物を置いたのだった。まだあるだろうか。あってくれ!
うまい具合にATMには先客はいない。中に入って確認。ない。親切な人が届けてくれていればいいけど。階段を上がり、文字通り交番へ駆け込んだ。「すいません! わ…忘れ物届いてないですか」 息切れしている私とは裏腹に、警官が悠長に奥のテーブルから顔を上げる。カメラなんですけど。 ゼイゼイする私。届いてないですねぇ。 若者が答える。忘れ物センターにあるかもしれないね。隣にいた老警官が言う。忘れ物センター…。さらに階段を上り、しかもターミナルの端に行かねばならないのか。息を切らしたまま愕然とする私に、若者の一言。「まあ一旦落ち着いて」 おまえ…
今度は忘れ物センターに向かって走る。これがまた遠く、一体何キロ離れているのだろう。帰宅客でごった返す駅をダッシュする私は恐らくいい迷惑だ。半ば叩きつけるようにしてタッチ式の自動ドアを開けると、目の前にいた無表情なおじさんに話し掛ける。「す…すいません、忘れ物…届いてないですか…」 カメラとかなんですけど。2階分の階段ダッシュに加え、横長の構内を走ったせいでひどい息切れだ。言葉をうまく繋げることさえままならない。オッサンは表情を動かさずに私を一瞥し、「ないですね」と言った。このオッサンはもう少し人間味を表に出すことができないのだろうか。私の偏見だが、役所然り国営企業的な組織は得てして態度が傲慢だ。少し改めたらどうなのだと言いたい。そんな私の心の声は多分息切れに紛れて聞こえない。受話器を取りどこかに電話をかけ始めるオッサンを前に息を整えていると、彼の発した単語に思わず顔を上げる。受話器を持ったまま私を見るオッサン。「そう、カメラ。あります?」 電話の相手に向けられたオッサンの台詞に大きく頷く。よかった、あった。これでひと安心だ。オッサンは受話器を置き私に言った。「駅長室にあるそうですよ」 またもや愕然とする私。駅長室はATMの横である。
ありがとうございます、と忘れ物センターを飛び出した。カメラに振り回されたこの時間ももうすぐ終わりだと思うとつい足が早まる。合わせて早まる私の鼓動。先程上った階段を今度は駆け降り、駅長室へと走った。オープンな入口の少し奥にカウンターが構えられていたが、もはやそこに近寄る体力すらない。敷居を跨ぐことすらせずにカウンターの向こうへと掛ける声は思いの外弱々しい。すみません…カメラ…。 あー、ごめんね。たった今忘れ物センターに持って行っちゃったよ。入れ違いだね。 もう只管呆けるしかない。呆然の極み。また2階分の階段+ターミナル端から端への大移動だ。私は何だ、砂漠のラクダか。
とにもかくにもカメラはすぐそこだ。すぐそこなのになかなか辿り着けないこのもどかしさ。まるで人生の縮図のようである。ゴールは近いのに、次から次へと流れるように現れる障害。カメラを追いかけ始めて20分、ようやくコーヒーにありついた時には尋常ではないくらいに疲労困憊していた。今日1日で今年1年分くらいは走ったはずなので、もういい。
ちょっと忘れ物をしました、また取りに来ます! 焦る私を前に、きょとんとするレジのお兄さん。何が何だかさっぱり分からないであろうまま彼が頷いたのを、“了解”という返事に変換。カップを置くと駅に向かって走り出した。コーヒーショップに向かう前にATMに立ち寄り、そこに荷物を置いたのだった。まだあるだろうか。あってくれ!
うまい具合にATMには先客はいない。中に入って確認。ない。親切な人が届けてくれていればいいけど。階段を上がり、文字通り交番へ駆け込んだ。「すいません! わ…忘れ物届いてないですか」 息切れしている私とは裏腹に、警官が悠長に奥のテーブルから顔を上げる。カメラなんですけど。 ゼイゼイする私。届いてないですねぇ。 若者が答える。忘れ物センターにあるかもしれないね。隣にいた老警官が言う。忘れ物センター…。さらに階段を上り、しかもターミナルの端に行かねばならないのか。息を切らしたまま愕然とする私に、若者の一言。「まあ一旦落ち着いて」 おまえ…
今度は忘れ物センターに向かって走る。これがまた遠く、一体何キロ離れているのだろう。帰宅客でごった返す駅をダッシュする私は恐らくいい迷惑だ。半ば叩きつけるようにしてタッチ式の自動ドアを開けると、目の前にいた無表情なおじさんに話し掛ける。「す…すいません、忘れ物…届いてないですか…」 カメラとかなんですけど。2階分の階段ダッシュに加え、横長の構内を走ったせいでひどい息切れだ。言葉をうまく繋げることさえままならない。オッサンは表情を動かさずに私を一瞥し、「ないですね」と言った。このオッサンはもう少し人間味を表に出すことができないのだろうか。私の偏見だが、役所然り国営企業的な組織は得てして態度が傲慢だ。少し改めたらどうなのだと言いたい。そんな私の心の声は多分息切れに紛れて聞こえない。受話器を取りどこかに電話をかけ始めるオッサンを前に息を整えていると、彼の発した単語に思わず顔を上げる。受話器を持ったまま私を見るオッサン。「そう、カメラ。あります?」 電話の相手に向けられたオッサンの台詞に大きく頷く。よかった、あった。これでひと安心だ。オッサンは受話器を置き私に言った。「駅長室にあるそうですよ」 またもや愕然とする私。駅長室はATMの横である。
ありがとうございます、と忘れ物センターを飛び出した。カメラに振り回されたこの時間ももうすぐ終わりだと思うとつい足が早まる。合わせて早まる私の鼓動。先程上った階段を今度は駆け降り、駅長室へと走った。オープンな入口の少し奥にカウンターが構えられていたが、もはやそこに近寄る体力すらない。敷居を跨ぐことすらせずにカウンターの向こうへと掛ける声は思いの外弱々しい。すみません…カメラ…。 あー、ごめんね。たった今忘れ物センターに持って行っちゃったよ。入れ違いだね。 もう只管呆けるしかない。呆然の極み。また2階分の階段+ターミナル端から端への大移動だ。私は何だ、砂漠のラクダか。
とにもかくにもカメラはすぐそこだ。すぐそこなのになかなか辿り着けないこのもどかしさ。まるで人生の縮図のようである。ゴールは近いのに、次から次へと流れるように現れる障害。カメラを追いかけ始めて20分、ようやくコーヒーにありついた時には尋常ではないくらいに疲労困憊していた。今日1日で今年1年分くらいは走ったはずなので、もういい。
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