O型に見えないって言われる

動物占いがペガサスのせいかO型に見られない。
死ぬまでに多くの変人に会いたい。

コーヒー論

もう何度失敗しただろう。缶の口を向こう側に向けてプルタブに指をかけ、えいやっと静かに倒した。パーツが押し込まれて現れる飲み口。ぷしゅっと音を立てて袖口に中身が飛んだ。またかよ!

台の上に缶を置いて開ければ飛び散り、手で持って開けても飛び散る。ジーンズやスカート、各種トップス諸々、大被害である。私と缶飲料は悉く相性が良くないらしく、今のところ私の勝率は30%くらいだ。うまく開けるコツはあるのか。
サラリーマンを含め、男の人は割と缶飲料を手にしている気がするけれど、彼らもきっと苦汁をすすってきたに違いない。勢いよく飛び出してくる液体は働く男の象徴とも言えるネクタイに染みを作り、またある時は玉山鉄二のボールドedなワイシャツを染め上げる。予定外の染色に呆然とする男達。我を主張し容赦なく飛びまくる液体に幾度となく立腹し、そして幾度となくチャレンジしては憔悴し、それでも匙を投げずに立ち向かっていった彼らを評価したい。

私はというと、缶ではなくグラスに入ったアイスコーヒーを撒き散らし、白いトップスをクリーニング送りにした。もはや缶とか瓶とか、形状は関係ない。
飲み物も固形ならばきっとこぼさないのに。バナナみたいに皮を剥く方式はどうか。でもそれじゃ剥いたそばからこぼれるか。
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いんちきナビゲーション

街中は一方通行や専用レーンが多くて私を困らせる。ここを曲がってまっすぐ行けばあの道路につながるはずだよな。おぼろげな記憶を辿りながらの運転。気が付いたら待ち合わせ場所に指定したコンビニの前に到着していて、しかしどういうわけか私は反対車線から通過していた。
約束の時間より10分程遅れてコンビニの横に車を止めた。車が多いわけではないが、駅近くのせいか歩いている人が多くて怖い。早く連絡をして乗ってもらおう。携帯電話に手をかけ、ボタンを押した。呼び出し音が鳴り続けるばかりで一向に姿を見せない相方。さては私の運転の恐ろしさにおののいて逃亡か。まだ死にたくないと何度も言われていたからな。携帯を片手にふと助手席の窓を見やると突然人影が現れ、心底ぎょっとした。人影はそんな私に構わずドアを開けて乗り込んできた。「いやぁそろそろかと思って。通り過ぎた後ぐるっと回って戻ってきたの?」 まさにその通りである。相方が私の顔を見て笑顔を見せる。が、私には相方を連れて車を転がすという使命があるのだ。はっきり言って笑顔を返す余裕はない。
順調に車は走り出した。ナビは家を出る時にすでにセットしてあるというこの準備万端ぶりは我ながら立派だ。ナビに合わせて走らせていたのだが、なんだかやたら遠い気がする。というか逆の方向に走っている気がするのは気のせいか。しかし方向音痴の私の勘は大概外れるし、ナビのお姉さんがこっちだというのだからこれでいいのだろう。経験上私は自分の勘より機械を信じるべきだ。
ナビの音声に合わせて交差点を右に曲がると、その先に突如として現れるインターチェンジ。え、なんで!? 「ちょっ、ナツメ、高速に乗せられるよ!」 「なんで!? どうして!?」 うまい具合にインターチェンジ手前にコンビニを発見し、そこに車を乗り入れると相方が言った。「とりあえず一旦コンビニに入っていい?」 飲み物を買い、再び車に戻る。白線のずいぶん手前に停められているところを見ると、相当パニックになっていたのであろう自分がうかがえる。「もう嫌になった」 鍵を渡すと相方は笑った。「だから最初から俺に運転させてくれればよかったのに」 それでは意味がないのだ、来てくれてありがとうという気持ちを表明したかったのだから。しかし憔悴した私は大人しく助手席に乗り込むことにする。この借りは必ず。リベンジだ。買ったコーヒーを飲みながら先程の事象について考察を始める。高速に乗らないコースを選んでいたのに、この事態は一体何なのだ。早く着くように気を利かせてナビのお姉さんが連れていってくれたのだろうか。そんなことはあり得るのか。「なんか運転しなくなった途端リラックスしてるところが笑える。せっかく会ったのに、ナツメ超ぴりぴりしてるんだもん」 やたら使命感に燃えてしまったのが筒抜けだったようだ。

やはり人には得意不得意があるのであるから、無理をしてはいかんな。でも私は相方を助手席に乗せてはべらせたいので、また実行しなければならない。
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大捜索〜100円の巻〜

コーヒーを飲もうと自販機の前に立ち、財布を取り出した。今時ちょっと珍しい110円の飲み物たち。小銭が10円玉しかなかったので、それと1000円札を投入してボタンを押した。ガコン、と音を立てて缶が落ちる。もう少し静かに出てこないものだろうか。だから自販機で炭酸飲料を買うと修羅場になるのに。
おつりレバーを引く。響き渡るしゃりんしゃりんという連続音。どうやら500円硬貨を切らしているのか、100円玉9枚を出すつもりらしい。外した! ガッデム! 屈んで釣銭口に手を入れた。ら、取り損ねた100円玉1枚が自販機の下に飛んでいった。あーもう。これだから100円は! 私の手に9枚は多いんだよ! 右手で髪を押さえながら自販機の下を見たが、それらしきものは見えない。さようなら、私の100円。きっとホームレスのオッサンによって回収され、彼の血となり肉となるのだ。それかわんぱく小僧達が傘か何かで攫っていって、うまい棒に変わるに違いない。無念だ。
「あらー、大丈夫?」 諦めて立ち去ろうとした私の後ろから話しかけられた。振り向くと、そこにはビル清掃のおばちゃんの姿。「下に100円入っちゃって」 私の言葉におばちゃんは自販機の下を覗き込み「見えないわねぇ」と言った。「そうですねぇ」 まぁしょうがないですよ、と言おうと思ったら、おばちゃんは「ちょっと待ってね」とバックヤードに消えた。少しすると毛先が四方八方に広がった箒を手に戻ってくる。そしていきなり自販機の下に差し入れて攫い始めた。
おばちゃん…なんていい人! しかし出てくるのはゴミばかりだ。最初にまっすぐ突っ込んで、闇雲に箒を動かしたのが原因ではないか。乱れた毛先の箒につつかれ、100円玉は所在地すら不確定になった気がする。
お、おばちゃん…。さらにビル管理らしきオッサンもやって来て、伸び縮みする指示棒のようなものを導入し始めた。なんだか段々大掛かりな捜査になってきた。たかが100円、されど100円。戸惑いを隠せないながらもその優しさが心に染みる。
5分くらい経っただろうか。オッサンが声を上げた。「おっ、あったぞ」 彼は体制を変えると、腕先を下に入れる。出てきたのは1円だった。「色似てるから間違えちゃった」 オッサン萌えキャラかよ!

さらに5分くらいして、今度はおばちゃんが声を上げた。「あっ、これじゃない!?」 箒を左右に振り、手を差し入れた。出てきたその手には確かに100円玉が握られている。「ありがとうございます!」 ちょっとだけいい日。
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ひとりバー@実家のわりと近く

重たいドアをそっと押し開けると、カウンターの内側からお兄さんが出てきた。何か口を動かしたのは分かったが、若干警戒しながら様子を窺う私には全く聴こえない。初めての店、しかもひとり、そんな場面でしっかり台詞を聞き取ってくれるような耳ではない。恐らく人数を聞かれたのだろうと思い、勘で答えた。「ひとりです」 「ではこちらへどうぞ」 カウンターに腰掛ける。
落ち着いた灯りの下にカウンター、私の後ろと左奥にはテーブル席が並ぶ。ちょっと高そうな雰囲気だ。でも私は酒が飲みたい。そして自分とは全然関係ない人と話したい。今の私は人に対するスタンスが崩壊気味だ。友達を相手にすると愚痴を聞かされるか、自分が愚痴る方になってしまってあまり気持ち良くない。変に気を使う上、都度この友人に話していいのか判断しながら過ごしてしまって逆に疲れる。全くの他人と話す方が楽な時期。

お絞りを片手にメニューを開く。“ジントニック”750円。…やっぱりね。この雰囲気だとチャージも取られそうだ。「すみません」 声を掛けると、さっきのお兄さんではなく、30後半くらいのおじさんが顔を上げた。なんという青髭。「ジントニックを」 はい、と答えて作り始めた。その手元をじっと見つめる。実に優雅な手つき。落ち着いていると手つきも雅になるのだろうか。「ここはいつ空いてるんですか?」 青髭がきょとんとした顔で私を見た。初めて来ておきながら、突然空いている日を尋ねた自分を少しだけ後悔する。“来店頻度は価格に比例”の法則 fromナツメ。しかしながら、時間及び曜日にもよるのだ。それ次第で私はまたこの店に現れる。
「平日は空いてますね。あとは早い時間も」 にこやかに答える青髭。「連休の初日って、不思議とお客さん少ないんですよ」 そこへ出迎えてくれた若者がやって来て会話に加わった。「お仕事帰りですか」 ちゃんと仕事帰りだと思ってくれて嬉しい。サークルで遅くなったんですか、などと言われようものなら私はこのグラスを握り割る(くらいの気持ちになる)。ただ、彼はどうも私を専門学校を出たてのフリーターか何かと思っているようだ。どのみちフレッシュな私。ぴちぴちギャルだな。

ずっと若者と話していたのだが、1杯以上飲むと誰も迎えに来てくれない時間になりそうだったので、そこで打ち止めにした。悲しい実家者の性。この5年というもの、そんなことを考えずに過ごしていたことが嘘のようだ。基本的に歩いて帰れる距離でだらだらしていたからな。反面実家の周りには何もない。
話が一区切りするや否や、「じゃあそろそろ」といきなり鞄に手をかけた。え、という表情を浮かべる若者。「1杯しか飲んでなくてすみませんねぇ」 「いえいえ、またお待ちしてます」 彼は奥に消え、再び姿を現す。提示された額は¥1590。お通しみたいのが出てきたが、¥840もするものだったのか。随分高いお通しだな。それにしてもチャージやサービス料の意義に納得できないのだけれど。

頻繁には行けないが、雰囲気的にはまた行きたい場所だ。黙っていればほっといてくれそうなところもポイントが高い。早めの時間に行けばこうしてまったり過ごせそうだが、生憎忙しい時ほど行きたくなる。忙しい=遅い時間。うっかり混み合っているタイミングに入店してこの額は痛い。チャージなんて雰囲気代なのだから、私が望まないシチュエーションであるそういう時は安くしてくれないだろうか。
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台風への思い

駅に向かう道。風で叩きつけられる雨粒。車の屋根って薄いんだなぁ。ばらばらと音をたてる雨に、ぼんやりそんなことを思った。台風のせいで道が混んで進まない。体中に蔓延した疲労と焦燥、そしてもやもやした思いが私の内側からこみ上げてきた。助手席に乗っているのをいいことに、意識はふっと遠ざかる。

昨年の私だったら間違いなく学校を休んだであろうこの天気。でもきっとバイトには行った。そして今、私は切に休みたい。ああもう逃げたい。久々に沸き起こる逃亡欲。

濡れた体で地下鉄に乗り込んだ。降りたらまた濡れる。吹き荒れている間は肌寒いのに、通過すると途端に蒸して暑くなるのも不愉快だ。どうせなら会社のビルごと吹っ飛べばいいのに。
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蛇毛の女

喫煙所へ向かうと先客がいた。挨拶をして煙草に火をつけ一息、顔を上げたら先客と目が合った。「君は眼力がすごいな。“がんりき”」 「“めぢから”じゃなくてですか?」 笑いながら答える。目力ではなく眼力。「うん、なんか吸い込まれそうな。だからこっち見ないでくれ」 わざと覗き込んでやる。

目力(めぢから)というと色っぽい。見つめられると心の一部がきゅっと縮むような、そして相手をどきどきさせるような、そんなイメージ。まっすぐ見つめて「わざとだよ?」などと言われようものなら、そりゃあ理性も吹っ飛ぶだろう。押し倒したくなる衝動に駆られるのも頷ける。
片や、眼力(がんりき)はどうであろうか。視線が強いのだろうことは想像に難くない。何こっち見てんだよ。 は?見てねーし。 見てんじゃねーか。 んだとコラァ。 よもや一触即発。この後はほぼ確実に短気者の小突き合い合戦から殴り合いに発展だ。そんな情景すら思い浮かぶ。

とんだマイナスではないか。でも褒め言葉として捉えておこう。きっと私の目に捕らえられたら圧倒されてしまうに違いない。僅かに動くことさえ憚られ、石のように固まってしまうのだ。メドゥーサみたいに。…あれ、これプラスか?
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新規開拓ファッションショー

「そろそろ衣替えするかー」 妹が言った。日中は夏物でもいいが、朝や夜は段々きつくなってきた。今日やらないといつやるのだ。がんばれ、力を振り絞れ私! 「そうだねー」 冬物を全部持ってきて、黙々と入れ替えていく。冬物はもともと少なかったが、これしかなかったっけ? 私は今まで何を着て生活をしていたのだろうか。
「こんなに冬服少なかったっけ? もっとある気がしたんだけどなぁ」 妹が1人で喋っているので様子を見に行く。やはり私と同じ事を感じているらしい。冬物衣料とはそういうものなのかもしれない。実に不思議だ、私は昨年まで一体どうやって過ごしていたのだろう。と、床に積んである服が目に入る。「これ何?」 「あー、いらないやつ。」 その中に白いパンツが混ざっていることに気が付いた。「これもいらないの?」 おしりのあたりにレースが縫い付けられたサルエルパンツ。かわいいのだけれど、私はそういう格好をしないので貰ったところで活かす事が出来ない。出来ないのだけれど勿体ない。「これいらないの? 勿体ない」 「あげるよ」 「いや、でもどうやって着たらいいのか…」 とりあえず穿いてみたが、とんでもなく緩い。「なんだこれ、下がるんだけど」 言っている間にもずり落ちるサルエル。「これ上に何着ればいいの?」 「なんでもいいよ、Tシャツとか」
自分の部屋に戻りTシャツと合わせてみたがなんだか変だ。再び妹の部屋に戻る。「なんか変じゃない?」 妹が私を見る。彼女も変だと思っているらしい。昔妹がサルエルによく合わせて着ていた袖なしの長い羽織り物を私に渡し、「ボーダーとか、タンクでも着れば?」と見限ったような発言をする。 いやいや、衣替えしてるのにタンクはないだろ。しかもタンクの上にこの袖なしを羽織るのかよ。

その後手持ちの服をいろいろと合わせてみたが、これでファッションとして成り立っているのかすら自信がない。散々試したところでようやく気が付いた。私はサルエルが似合わないのだ。
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会話飢餓

体の中がもじゃもじゃする。薄ぼんやり、もわもわと私の内側に広がって、そして落ちる影。喉元以下、むーんと巣くうその存在がどんどん私を圧迫してくる。もじゃもじゃ。あぁこの感じ、前もあったなぁ。これは誰かと喋りたいという欲求の表れだ。

目の前にいる人と話す。たったそれだけのことなのにハードルがあって、しかもやたらと高い。…でも考えようによってはハードルの下を潜ればいいのか。トンネルみたいに。ということは私の目の前にあるのは壁か。ハードルの隙間にはめ込まれたアクリル板が私の行く先を阻む。ついでにハードルの脚はコンクリートで固められているから、ぶつかれば骨折は免れない。果たして私にそこまでするだけの力があるのか。いや、ないだろうね。絶対的なパワー不足。顔が濡れて力が出ない。ナツメー、新しい顔よー! 遠くから私を呼ぶ声。声の主は何かを抱えて走って来、それを投げる。そこにその何かで遊んでくれるのかと思い込んだうちの犬が現れて、それを銜えてどこかへ行った。瀕死の私。バタコさん役の誰かも消えたし、このままばいきんまんに握り潰されるのだ。なんという悲劇。もしそうなったら私の遺影は似顔絵にしてもらいたい。

ただ“話す”だけならそこにハードルはなく、そこに“人を前にして”という条件を付け加えると一気に地面からせり上がってくる。対面式トークがしたい!
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忍法変わり身の術

枕元の携帯ディスプレイに表示されているのは“10:04”。あー、もうこんな時間かー。もうちょっと寝ていたいなあ。でもお風呂入らなくちゃいけないしなぁ、足の裏が気持ち悪いなあ。あーでも…。 しばらく葛藤した後、諦めて階下に向かった。年頃の女たるもの、お風呂を怠ってはいけない。清潔第一、そして常にいい匂いを振り撒いていなければならないのだ。…すいませんね、汗っかきで!!

朝ごはんを求めて台所に入ると、ガス台の上に並んだ2つの鍋が目に留まった。煮物だとか昨日のお味噌汁の残りが入っているのだろう。試しに蓋を開けてみると1つはさんまのつみれ汁、もう1つはカツ丼の具。冷たいごはんをレンジで温め、その上に具を乗せる。そういえば両親はどこに行ったのだろう。犬の姿も見えないが、こちらはきっと妹の部屋にいるのだと思われる。いや、そもそも妹は家にいるのだろうか。誰の予定も分からないという現代風我が家。
それにしても今日のカツ丼はやたらとふわふわしている。すごいな、何をしたんだろうこのカツ丼。そう思いスプーンを口に運んだ。…? 思わずテーブルの上のカツ丼を2度見。おまえは本当にカツ丼か? カツ丼じゃない気がする。疑わしい気持ちでもう1回食べ、そして分かった。おまえはカツ丼じゃないな! 油麩丼だ! カツ丼の皮を被った偽物め!

宮城県のご当地グルメとして最近紹介されているのを見た。それを作ったのだろう、それは全然構わない。新メニューの導入は大歓迎だ。でもね母、私はショックだよ。なぜならカツ丼だと思ってたからさ。
裏切られたような気分だ。油麩丼がおいしくないというわけではない。おいしいのだ。おいしいのだけれど、私はカツ丼だと思って食べたわけだ。そしたら似て非なるもの、すなわち油麩丼だったというこのやり切れない思い。これは裏切り以外の何物でもない。最初から油麩丼だと知っていればそのつもりで食べたのに!

落ち込みながら紅生姜を乗せて全部食べた。その後お昼過ぎに1人でラーメンを食べに行ったのだが、まさかの臨時休業。なんという。
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スルー力

今日行かないと行けなくなってしまう。だがめんどくさいのだ。何がめんどくさいって、時間がかかりすぎる。1回行くたびに3、4時間。しかもその間ずっと同じ姿勢でいるせいか、ひどく肩が凝る。そして完成した頭は不自然なくらいにぺたんこでボリュームが皆無。いくら早めに済ませたとて、その姿で買い物をする気には到底なれない。
気力を振り絞り、何回か行ったことのある美容室に電話をかけた。「今日なんですけど、空いてますか?」 少々お待ちください。…本日は予約の方がいっぱいですね。「そうですか、わかりました」 そう言って電話を切る。明日以降は私がどうなるのか分からないのだ。できれば今日がいい。別の美容室にアタックしてみる。「今日空いてます?」 立て続けに3件アウト。連休のせいか、それとも突然すぎるせいか、はたまたそういう時期なのか、どこもいっぱいだ。困った時のGoogle頼み、適当にあたりをつけて再トライ。「今日空いてますか?」 これでダメなら別のところを探さねばならない。諦めムードが漂う私に、光が差した。「大丈夫ですよ」 まじかよ!

「ではこちらへ」 美容師の後についていった先は洗面台だ。膝元にブランケットが掛けられ、椅子が上昇していく。どうせまた言われるんだろうな、と思い、背もたれが倒れたのを確認すると私はじりじりと体全体を上に押し上げた。そのまま倒れたのでは、私の頭はどうも洗面台のいい位置に届かないようなのだ。ふちのあたりに乗り上げて終わりらしい。実に面倒だ。
顔に布を被せられ、シャンプーを泡立てて私の頭を洗い始めた美容師は女の子である。…うーむ、頼りない指遣いだ。頭皮をこちょこちょとくすぐるだけで微妙に気持ち悪い。やはりシャンプーをしてもらうなら男の人の方がいい。指が太いからなのか、しっかり洗ってくれる感じがして心地良い。ホールド力の問題か? 私がそんなことを考えている間も彼女はごしごしと懸命に頭を洗い続ける。そこに突如感じる鈍い痛み。「…つっ」
耳のふちのピアスが彼女の手に当たったらしい。髪を洗っていると引っ掛けやすい場所ではあるから、ある程度は仕方あるまい。そう思ってとりあえずやり過ごした。やり過ごしたが、また引っ掛けられるのではないかと気が気でない。私の全神経が左耳に注がれる。耳の近くを洗われるたびに、きゅっと胸のあたりが縮む気がする。
ひやひやしていたら2度目が来た。これは一旦伝えるべきだろう。「すいません」 彼女はシャンプーを中断し、布を外して何事かと私に尋ねた。「はい」 「あの、そっちの耳のピアスが時々手に当たって痛いので、なるべく気をつけてもらえますか?」 「あ、すみません」 私の顔に再び舞い降りた布。これで大丈夫だろう。とはいえ油断は禁物だ。気を抜かずに耳に意識を集中させ、緊張状態でシャンプーを受ける。

「…っ」 またかよ。もうやだこの人。
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